いじめ自殺

「いじめ自殺は本当に6人だけなのか」。文部科学省が15日公表した06年度のいじめによる小中高生の自殺件数に、子供を失った遺族らからは疑問の声が上がった。学校に「いじめ」を否定され続けるある父親は「学校は密室。真実を追及しても壁は厚い」と訴え、学校側の対応に苦悩する。【亀田早苗、浅野翔太郎、釣田祐喜】

 山形県高畠町の県立高畠高校で昨年11月、2年生の女子生徒(当時16歳)が校舎渡り廊下から飛び降り自殺した。女子生徒の携帯電話のメモに、クラスのほぼ全員から「うざい」などと言われたと書き残されていた。自殺直前には「男子からも消しゴムのかすをかけられる」と母親に打ち明けていた。

 両親はいじめによる自殺と訴えた。だが、県教委は生徒からの聞き取り調査をした結果、「いじめは確認できない」と報告書を出した。県教委は「暴言は他の生徒に向けられていたのに勘違いしたのでは」「一人でも具体的な行為があったと話していれば状況が変わるがそれがなかった」と説明。報告書には「女子生徒が父親とけんかをしたと話していた」と身に覚えのない記載もあった。

 「娘はうそを言って死んだのか」。父親(56)の必死の問いかけに、県教委は「死んでしまったのでは聞くこともできない」と答えるだけ。父親は「山形県は『いのちの教育』を掲げるのに先生たちは心が痛まないのか。第三者による調査機関を作らないと親の知る権利が確保できない」と訴える。両親が望む再調査も実現していない。

 昨年11月に自殺した埼玉県本庄市立中3年の男子生徒(当時14歳)は、他の男子生徒から執拗(しつよう)に金銭を要求されていた。学校側は相談を受けていたにもかかわらず金銭を要求した生徒に注意しなかった。市教委は調査で金銭要求は「いじめにあたる」と認めたが、遺書がないことなどから「自殺との因果関係は不明」と結論づけた。

 父親(42)は「息子は学校を信頼して相談したが、何もしない間に再び恐喝行為が起きた。調査報告で教育委員が『納得してもらえないかもしれないが、よく調査したと思う』と言ったのは一生忘れられない」と話した。

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 ■06年度に起きたいじめ自殺■

月日     学校の所在地  学年 年齢  性別 氏名

 8月17日 愛媛県今治市  中1 12歳  男 堀本弘士さん

   25日 名古屋市千種区 高1 17歳  女 −−−−

10月11日 福岡県筑前町  中2 13歳  男 森啓祐さん

   23日 岐阜県瑞浪市  中2 14歳  女 −−−−

11月12日 埼玉県本庄市  中3 14歳  男 −−−−

   12日 大阪府富田林市 中1 12歳  女 −−−−

 ※文科省は件数のみを公表。毎日新聞が独自取材し補足した。氏名は遺族が公表した場合を掲載

毎日新聞 2007年11月16日 東京朝刊