増える仕事…心に「ゆとり」なく「職場いじめ」?

東京都産業労働局が10年ほど前から労働相談で統計を取り始めた「職場いじめ」(パワーハラスメントパワハラ)。労働相談全体に占める職場いじめの相談は、平成9年の2・3%から18年には4・6%に倍増した。
 「業務量を増やされ、定時に帰れないと『なぜ残業するんだ』と怒られる」といった理不尽なケースや、「仕事を与えられない」など無視されるケース、中には「カッターナイフを投げつけられた」といった、パワハラのレベルを超えたものまで、相談はさまざまだ。
 「パワハラの相談が増えた一番の原因は雇用の形態や職場環境の変化」と指摘するのは、「職場いじめ」などの著書があるジャーナリスト、金子雅臣氏。バブル崩壊後に進んだリストラと成果主義の導入により、削られた人員で結果を求められる職場環境が生まれたため、パワハラが増えているのだという。「10年前は上下関係にも余裕があった。でも仕事が質、量ともにアップし、ミスも許されない。上司と部下、双方に余裕がなくなっている」と金子氏。「どの企業にも起こりうる問題」とも指摘する。
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 職場環境の変化が生んだパワハラが、逆に職場に与える悪影響の例として金子氏が挙げるのは、平成17年4月のJR福知山線脱線事故で問題となった、JR西日本日勤教育だ。客の「命」と「時間」を預かっているという大義名分の下、教育という名の「懲罰」が徐々にエスカレート。部下は萎縮(いしゅく)してミスを隠そうとし、さらに大きなミスを生み出す。
 「部下を追い込む、JR西と同じような環境が、多くの企業で生まれ始めているのではないか」(金子氏)。
 一方で、企業側のパワハラ対策に対する意識改革が進んできているという事実もある。中央労働災害防止協会が17年3月にまとめた「パワーハラスメントの実態に関する調査研究報告書」によれば、アンケートに回答した企業のうち、パワハラ対策を「重要である」と答えた企業は約8割。
 大企業ほど、その傾向が強かった。またパワハラ被害に対応するための相談窓口も、9割以上の企業が設けていた。
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 パワハラ対策に関する講演や研修などを行う企業「クオレ・シー・キューブ」の代表で「パワーハラスメント」という言葉の“生みの親”とされる岡田康子氏は、この調査にかかわった。
 岡田氏は「確かに、大企業や情報感度の高い企業では、以前のようにひどいパワハラは少なくなったようだ」と分析。「かつては精神的な問題を社員が抱えると『あいつは弱い』のひと言で切り捨てられたが、今は上司や社内環境に問題があることに企業が気付き始めている」。
 一度問題になると、マスコミにも取り上げられ、賠償金の請求やイメージの低下など、企業の受ける打撃も大きい。
 何よりも、パワハラで有能な人材を失うことになれば、会社の経営にも直接響く。
 「会社側がリスクの高い問題として、パワハラを位置づけるのも無理はない」(岡田氏)。
 パワハラは“企業力”をもむしばむ危険性をはらんでいるのだ。

追いかけるべきファッションはこれ、聞くべき音楽はこれ、長いものには巻かれろ、出るくいになるなといった見えないルールが作り上げられ、それを守っている限りはグループのメンバーとして認められ、見掛け上の安全が得られます。しかし見えないルールに過敏になればなるほど、自分の内面からわき起こる感情や自分らしい考え方に鈍感になり、自分の感じていること、したいことが見えなくなってゆきます。

 グループ内では「違い」は、グループの結束と安全を脅かすものとして排斥されます。これが現代のいじめの構造です。

 いじめのターゲットとなった人は、心に深い傷を受けます。自分の考えや感覚を否定されることになるからです。そして自分を表現することを危険と感じ、身を守るために感情を過度に抑制する道を選ぶことが多いのです。まれに、いじめをうけた屈辱感やくやしさが攻撃性に転換され、自分より弱い立場の人や家族への暴力となって表現されるケースもあります。



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