タダ働き

日本マクドナルドは、直営店の店長ら約2000人の「名ばかり管理職」に対し、8月1日付で残業代を支給することを決めた。同時に役職手当に該当する「職務給」を廃止する。現職店長からは「会社の人件費は変わらず、むしろサービス残業が増えるだけ」と、さらなる労働環境の悪化を懸念する声が上がる。東京地裁は今年1月、店長1人に約750万円の支払いを命じたが、舞台を高裁に移した裁判は継続する方針で、強気の姿勢は何ら変わっていない。

 新たな制度では、残業代の支給対象を直営店長と地域の店舗管理責任者に拡大するが、社内における「店長」や「エリアマネジャー」の肩書や職務権限に変更はない。店長手当に該当する「職務給」を廃止し、成果に応じた報酬と残業代を組み合わせる新制度に改め、社外メンバーによる「労務監査室」を設置して労働時間の管理、残業時間短縮を強化するという。

 一見、「名ばかり店長」問題に歯止めをかけそうだが、現実は甘くない。ホテル従業員を統括するサービス連合傘下の書記長は「店長らは、今後法制上の『管理監督者』でなくなるため、特別勤務(=残業)は上司による事前の『残業命令』が前提。これは、少ないバイトで店を回しながら、終夜営業をこなす店長の勤務実態からすれば、到底現実的ではない」と警告。さらに、自身の人件費管理という“評価”が新たに加わることで、締め付けは一層強まるという。

 実際に同社と係争中の現職店長、高野廣志氏(46)も「今後は協定で、月45時間しか残業ができなくなります。これまで100時間近く残業していたが、残りの55時間分どうするつもりなのか、会社は何も考えていない。店長の仕事量が減るわけでもないし、システムや人事運用が変わるわけでもない。運用次第では、いまよりもっと、店長の労働環境が劣悪になる」と不満を口にする。

 外食産業は、ただでさえ消費低迷と原材料費高騰によるコスト増にあえいでいる。労働力不足の深刻化で要員確保が一層難しくなれば、賃上げ圧力が高まるのは確実で、店舗の賃料上昇などのコスト増も懸念される中、店長らの待遇が厚くなるとは考えにくい。「名ばかり店長」の「名ばかり残業代」が、長時間労働を強いられる直営店長たちを、さらなる窮地に追い込むことになりそうだ。