日本人はアメリカを許していない

力作、いや、真に力のはいった論文集である。しかも今から十年乃至十二年前に書かれたものを改訂したものだというが、その主張は現代に通じるものがある。こういうしっかりした文章を読むと、優れた論文とは科学的な裏づけに基づいており論理に矛盾のないものである、ということがよくわかる。すべからく理由や原因があるから今の日本が、良きにつけ悪きにつけ存在しているのである。著者は、「日本は先の太平洋戦争に敗れただけでなく、戦後の戦争にも敗れた」、と述べている。そして戦後の戦争に敗れた理由を次のように分析している、「自由とか正義とか人道とか都合のよい言葉を、全部戦勝国に握られたということです。−中略− 自分たちは、あたかも欺瞞や残虐や裏切りとは関係ないがごとき前提で、すべてを語るレールがさっと敷かれたわけです。(171ページ)」更に作者は、欧米戦勝国が声高に述べるこの自由と正義がいかに矛盾したものであるかを、先の大戦終了間もなくして、アメリカもイギリスもフランスもオランダも、真っ先に植民地に戻ってきた、という事実を挙げて実証している(152ページ)。誠に論理に隙がなく、小気味良いものを感じるのである。
 アジアについても著者の分析は容赦がない、「日本にいま鞭をくれようとするアジアの人々には、その鞭は先にアメリカに、イギリスに、フランスに、オランダに、ロシアにも同じくらいの勢いで振り下ろすがよい、と言ってやらなくてはならない。同様に、当時の日本と心をひとつにして起ち上がることのできなかった自らの国の父祖のだらしなさ、ていたらくにも鞭を振り下ろすがよい、と言ってやるべきであろう。(30ページ)」
 この本を読んで、自ら発信する機会があるかどうかは別にしても、日本人としての信念、或いは心構えを持つために、このような歴史的事実を常に考え続けていかなければならないのだということを自覚した。