経過の良い患者さんの特徴

実際に臨床経験20年の経過をまとめてみると、経過の良い精神病患者は、決して僕の言う事を良く聞く人たちではなかったのでした。経過の良い患者(最近は精神科サーバイバーと言うらしい)は、自分勝手に薬を飲む人で、人生の大事なことは、医者になんか相談せずに自分で決めるような人であったのです。勝手に結婚し、勝手に転職し、勝手に医者を替えるような…。病院にくるのは、「自分で決めた自分に必要な薬を貰うためだけ」、であるような人が実は経過がかなり良いのでありました。彼らは、医者にプライバシーを話さないし、僕の事を「話の通じないやつ」と軽蔑してさえいそうな人であります。彼らに比べると、僕の言うことを良く聞いて僕の指示通りに行動していた人は、残念ながら長期経過は見劣りがするのでありました。僕にとっては悔しいし、僕の指示に良くしたがってくれた人には実に済まない気がしています、がこの現実は認めざるを得ない、というのが現在の僕の心境であります。 

経過の良い患者さんと良くない患者さんの違いの実例をあげると、中年の男性で、不眠と仕事の能率が上がらない、という、うつ状態の訴えの3人の例があります。3人とも、休日は息子のリトルリーグの手伝いを数年間続けていて、3人ともリトルリーグの手伝いは自分の生きがいであり、ストレスではない、と言っていました。診察の結果、治療方針として、3人ともに「仕事以外の時間は何もしない方が良い」と指導しました。
 Aさんは、「先生がそういうなら」、ときっぱり手を引いた所、そのかいあってか仕事は休まず続けられ、3か月後にはうつ状態寛解(治癒)しましたが、2年後にうつ状態が再発し、今度は仕事以外に何もしないでいてもうつは回復せず、休職し退職となってしまいました。
 Bさんは「自分の好きなことは止められません」と手伝いを続けていたが、2か月後には出社拒否状態になってしまい、「良く考えたら手伝いにムリがあったことは分かったが、止められないので、今後は手を抜くようにします」と軌道修正し、その後も時々は仕事を休みながら、夜勤を減らしながら、徐々に回復して行き、3年後にはほぼ寛解しました。
 Cさんは自分がうつ状態であることも、リトルリーグの手伝いがストレスになっていることも認めず、睡眠薬だけ服用していましたが、仕事上のミスが重なり、上司に言われて休職した後退職してしまい、その後別の仕事に就くことは出来ましたが、休日が不定期で、リトルリーグどころではなくなってしまいました。
 長期経過としては、Aさん<Cさん<Bさんで、医者の言うことを良く聞いた人が最悪であったのでした。自分で考えて、自分で行動した人が、自分の人生を上手く切り開いた、ということになりますかね。<<