「何でも起こり得る」中学校

いまの中学教師の世界は3Kの職場の一つではないかと思う。
 第一は「キツイ」。「ウッセエ」「関係ネエヤロ」と罵声(ばせい)を浴び、ときには、小突かれたりけられたりしながら、生徒にかかわる。勤務時間が終了しても生徒指導で遅くまで残り、休みの日も万引で連絡があれば飛んでいかなければならない。休む時間などはないに等しい。
 第二は「キケン」。生徒に手を出されるので危険この上ない。鉄棒やナイフを所持して歩く生徒や、カッとして胸ぐらをつかんでくる生徒もいる。「中学教師は危険と隣り合わせ」といっても過言ではない。
 第三は「キタナイ」。生徒がペッとつばを吐き、トイレでたばこを吸う。給食の残りを外に放り投げる。その処理はすべて教師側に回ってくる。授業も雑務用係も兼ねているのが中学教師の姿である。
 
 ここでは、生徒に見えない部分や、投書した教師が言いたくても言えなかった切実な問題点に関しては、うかがい知ることは出来ない。だが、あえて以下に、「荒れる中学校」の実情とその原因、対応策を略述する。

ところが、近年「子ども、生徒が主人公」の状況が、各中学校で往々にして発生している。したい放題、言いたい放題の問題生徒たちが、肩で風を切ってのし歩き回り、ときおり彼らを教室へ入れる時も、やっと説得に応じた問題生の後方に、何人もの教員がついて歩くのである。教師を従えた問題生徒の姿は、まさに「主人公」そのものである。
 主人公となった問題生たちは、治外法権を得た特権階級に成り上がり、一切の制約から解放され、中学校を「遊び場」「社交場」「サロン」として悪用する。
 来たい時に来て、帰りたい時に帰り、出たい時に出て、戻りたい時に戻る。髪は染め、化粧は濃く、ピアスと称して耳に穴をあけ、マニキュアを悪趣味に塗りたくる。大声を上げて校内を走り回り、友人のカサや清掃用具をこわして球技に興じるかと思えば、級友の下足や上靴を靴箱から出してボール代わりに放り投げて遊ぶ。落書き、器物破損は日常茶飯事。時に消火器を噴出させ廊下を白一色に汚し、気が向けば火災報知機を鳴らして教師を走らせる。必要に応じてバイク、自転車を盗み、盗む道具もホームセンターなどから万引してくる。
 教師の指導や制止は全く無視し、答える返事はウソばかり。目の前で喫煙を見とがめられても「知らん」「してへん」で押し通す。少し強く指導をしたり、長時間――とはいっても五〜十分程度――説諭するとたちまち「キレた」と称して暴れまわり、暴言、暴力の限りを尽くす。
 「毎日のように」という表現があるが、荒れる中学校では「ように」は不要である。「毎日」それも数件、日によっては十数件もの問題行動が発生するのである。

ならば、なぜ、このような問題生が急増しているのか。悪いのは「学校」か。それとも「家庭」か。「社会」か。確かに一部には指導力の欠如した教員や崩壊家庭もある。
 だが、多くの教員は教員なりに、親は親なりに精一杯の努力をしているのである。にもかかわらず少年非行が増加し、悪質化する原因は、このいわゆる「戦後社会」の根本原則が間違っているからに他ならない。「人権」「民主」「話し合い」「理解」「共生」などの既成秩序破壊、問題行動「甘やかし」の論理が、現在の「教育破壊」をもたらした最大原因である。
 やりたい放題の問題生徒の「人権」は「地球よりも重く」、彼らを頭ごなしに叱るのは「理解」ない「非民主的な」否定すべき教育態度であって、生徒との「共感的理解」による「愛情」あふれる指導で、彼らの内面にひそむ善意や向上心を引き出していけば、いずれホンネを語ってくれる。その悩みに真剣に耳を傾け、共に語り合っていけば、彼らは自分たちの誤ちに気づき立ち直るはずである。
 この種の「生徒、子ども性善説」が、いかに現実離れした空理空論、空想であるか、すでに中学校の実情の一部を知った諸兄には理解できよう。
 大人にも善人と悪人がいるように、また、一人の人間の中に善意と悪意が共存しているように、「子供」にも善悪両面が併存しているのである。そして、ここで、あるいは現在の社会で喫緊の課題となっている少年非行は、本来正しい方向に成長すべき青少年が誤った方に向かっているという歴然たる事実に起因している。悪い方に進む以上、断固たる処罰と矯正が必要であるが、神戸事件で二人の小学生を殺した中学三年生が医療少年院で治療、保護されている例でもわかる通り、加害少年は、むしろ「被害者」扱いされるのである。つまり「中学生」「子供」は、すべての犯罪の免罪符であって、彼らの犯罪による被害者は泣き寝入りするしかないのである。
 十四歳までは刑事責任がなく、十六歳までは検察に送致されず、十八歳までは死刑になることはない。
 この「甘やかし」の構図に、問題生たちは最大限に「甘え」てくる。そして、「甘え」がきかなくなれば、オモチャを買ってもらえない子供が床に寝転んで足をバタつかせながら泣きわめくように、「ムカつく」「キレた」と称して罵詈雑言、悪態の限りを尽くし、暴れ回る。対する教員側は体罰禁止もあり、一人の問題生を数人がかりでなだめ、説得するのが精一杯という状態になる。

諸悪の権化は少年法