志望動機は直球ばかりが勝負ではない

この話に熱が入ってしまうのには訳があります。お恥ずかしい話ですが、私自身がキャリアコンサルタントとなるべく人材紹介会社に転職活動を行っていた際、「ある志望理由」をずっと職務経歴書に書き、面接でも述べていたところ、それを理由に落ち続けていた(らしい)経験を持っているからです。

 私はそのとき、ある大手の人材紹介会社を使っていました。その会社のキャリアコンサルタントに頼んでその会社に応募することにしました。同社だけが「面接の結果は、人物面は問題ないが、志望動機がビジネスとしてちょっと……」という不採用理由を教えてくれました。ほかの会社は1次面接や書類選考ですべて落とされましたが、自己応募だったからか、不採用理由は教えてもらえませんでした。おそらく、同じ理由だったのではと想像しています。

 その後、知人のアドバイスを受け入れて書類を書き換え、面接での発言も修正したところ、応募した会社はすべてから内定を得られたことからも、その思いは強まりました。

 そのとき私が思ったことがあります。それは、人材紹介会社でコンサルタントとして働いてみて確信に変わりました。

■本当の転職理由を語らないという戦略
 冒頭の不採用理由を思い出してください。本当の転職(志望)理由を企業に伝えるべきかどうかは、ITエンジニアの転職でも考えなければならないことです。

 自分のキャリアパスを自分で形成するという強い意志を持ち、具体的な社歴・職歴を含めたキャリアプランニングができているなら、個別の採用面接において、必ずしも本当の転職理由を述べる必要はないでしょう。

 なぜなら、その人にとって今回の転職が、キャリアアップのためのステップアップ転職という位置付けの場合、転職活動の中で自分の最終目標を述べることが必ずしも本人の利益になるとは限らないからです。

 転職活動で、一般的にいってはいけないとされる典型的なNGフレーズをいくつかご紹介しましょう。定着率が売りの会社に「将来は起業したい」、2次請けの会社に「将来は1次請けでやりたい」、コンサルティングをやっていない会社に「将来はコンサルタント志望」とぬけぬけといっていいものでしょうか。

■本当のことをいって印象が悪化
 例外がないとは申しません。しかし、面接担当者から、「この人は腰掛けで当社を受けているのか」と思われた瞬間に、その方の印象は急速に悪化します。次の転職が最後なのか、次の次を考えるのか、本音はともかくとして、1回ごとの転職は戦略的に行うべきです。面接を受けている間だけ自分の最終目的(本当の志望動機)を封印し、後で気が変わったことにしましょう。決してうそをつくわけではないのです。

 ただし、このような形での応募をするためには、上記の強い「意志」と「キャリアプラン」が絶対必要条件になります。それなくして、単にその会社に入りたいがための薄っぺらい虚言だけで面接をクリアしてしまうと、いずれどこかでしっぺ返しが来てもおかしくありません。

■重要なのは意志とキャリアプラン
 この「意志」は、まさにご本人次第ですが、「キャリアプラン」は、ご自身の今後の職業生活の運命を決める作戦立案そのものですから、場合によってはほかの人に相談してでも慎重に決めるべきものでしょう。

 このキャリアプランとは、ひと言でいうと「何歳ぐらいでどの仕事を何年ぐらい経験を積むと、次はどこのどのような仕事に転職できるか」ということを客観的に分析するということに尽きます。 私はSE出身ではありません。しかしキャリアコンサルタントになる前に、基本情報処理技術者試験を受験し合格しました。そのときの受験勉強を思い出して考えると、「ITエンジニアのキャリアアップは、PERTのアローダイヤグラムに表すことができるのではないか」と思うのです。

 自分でキャリアプランを立てたはいいが、転職してみた後、それが間違っていたことが分かったら、戦略的転職もへったくれもありません。そんなことで社歴だけ重ねて経歴書がボロボロになってしまった方に何人もお会いしたことがあります。

■鯉の滝登り作戦による転職も
 例えば現在は3次請け、4次請け企業で働いているが、将来は絶対1次請けの企業に転職したいという志向をお持ちの方は、少なくありません。しかしこういう方がいまのポジションから直接1次請け企業を狙うことは極めて難しいでしょう。それでいて3次請けからもなかなか脱出できない――。そういうときは、まずは2次請けに飛び移る鯉の滝登り作戦で行きましょう。

 能ある鷹が爪を隠すのは当然です。しかし、能ある鷹になりたい人も、(上昇志向という)爪を隠さなければならないこともあるのです。

 固い意志をお持ちでありながら、キャリアプランについてお悩みの方は、人材コンサルタントがいつでも相談に応じてくれるはずです。そんなときは、気軽にお声を掛けください

http://www.atmarkit.co.jp/job/jirei/kiji/wakare21/wakare01.html

となると、私が別の記事(「志望動機は直球勝負ばかりが能じゃない」に書いたように、本当の志望動機を伏せて入社を試みる方法もないではありません。ただその場合、表面上希望した仕事はできても、その後社内でどんなに騒ごうが、最終的にやりたい仕事へ転向することは難しいでしょう。企業にいわせれば、

「あなたは○○の仕事のために採ったんだ。××をやりたいなんていっていなかったじゃないか」

 ごもっともです。そこで出てくるのが、いわゆる社内公募制(社内FA制)のある会社を目指す方法です。本当は××をやりたいのに、自分の強みである○○をやりたいとだけいって転職し、その後の社内異動に賭ける作戦です。

■キャリアチェンジの決断は早めにすべし
 社内異動であれば、たとえキャリアチェンジとなっても、社員ならば面倒を見てくれる可能性は高いはずです。外からキャリアチェンジで入ろうとする場合とでは、難しさに雲泥の差があるでしょう。

 しかしながら社内公募制といっても、すべての企業に導入されているわけではありませんし、企業ごとに制度内容もさまざまです。そもそも志望先の上長がYESといわないと異動できない仕組みを採用しているところも多く、制度があるからといって、簡単に社内キャリアチェンジができるかといえばそうでもありません。

 こればかりは会社の中の話なので、人材紹介会社も責任は持てません。ある程度の抜け道はあるにせよ、結局、キャリアチェンジのご希望・ご相談はお早めに、ということに尽きるのです。


筆者プロフィール
山本直治
労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。


http://www.atmarkit.co.jp/job/jirei/kiji/btura04/btura01.html