弁護士と依頼者のトラブル急増 「ノキ弁」「即独」…新人の経験不足が背景?

新司法試験で合格した弁護士が仕事を始めた平成19年度以降、弁護士と依頼者の間のトラブルが多発している。急増した新人弁護士が就職難で、固定給なしで既存事務所の机(軒先)だけを借りる「ノキ弁」などになるケースが増え、先輩から実務を学ぶ機会が減ったことも要因とみられる。危機感を抱いた大阪弁護士会は今秋、新人と共同で訴訟を受任して育成する「指導役」のベテラン弁護士を3倍に拡充する方針だ。

 大阪府消費生活センターによると、弁護士と依頼者の間のトラブルをめぐる相談件数は18年度で39件だったが、同年導入された新司法試験の合格者が弁護士登録した19年度は63件に急増した。その後も60〜80件前後で推移、23年度は98件に達した。

 依頼者の相談は、着手金を支払った後に話の内容が変わった▽法律用語が分からなかったので質問したら怒られた▽株式投資のトラブルで依頼したが、半年間連絡がない−といった内容で、全国的にも都市部を中心に同じ傾向がある。

 約3800人の会員を抱える大阪弁護士会では19年度以降、旧司法試験時代より100人程度多い毎年二百数十人の新人が登録。これまで新人は、まず既存事務所に所属する「イソ弁」(居候弁護士)になるケースが大半だったが、今は経済停滞の影響もあり、既存事務所だけで新人全員を採用できなくなった。

このため、独立採算型のノキ弁や弁護士登録後すぐに独立する「即独」などの新人が急増。同会が3月、登録2年以内の394人を対象に行ったアンケートでは、有効回答152人のうちノキ弁と即独(登録1年以内の独立を含む)が約2割の計27人に上った。

 ノキ弁や即独は、イソ弁のように先輩の指導を受けながら仕事を習得するのではなく、経験不足のまま依頼者の相談を受けるため、トラブルが増えているとみられる。大阪市内のある弁護士は「訴訟相手の代理人が新人弁護士だったが、出してきた書面は法律を理解していないような内容だった」と振り返る。

 同会は21年度、ベテラン弁護士が「指導役」となって新人育成にあたるユニークな制度を導入。現在約30人が登録しているが、アンケートに危機感を募らせ、今秋から100人程度に増やすことを決めた。新人の指導期間も従来の半年から1年に延長し、指導役への一定の報酬も検討する。

 この制度は新人が指導役の事務所へ通い、共同で刑事・民事訴訟を受任して弁護士のスキルを身につける仕組み。法律や裁判の知識はもちろん、依頼者との接し方や事務所経営のノウハウも含まれる。

同会の畠田健治副会長は「実務能力の乏しい新人弁護士が増えるのは由々しき問題。社会に対する弁護士の責任を果たせるよう、新人育成に力を入れたい」と話している。