石の上にも三年

「石の上にも三年」ということわざがあって、古い感覚の人などは、

「三年ぐらい我慢しなければ、その仕事が自分に合っているかどうか、分からないもんだ!」

などと説教することがある。一時期、私もそんな説教に屈していたことがあって、

(とにかく三年ぐらい耐えなきゃ)

と思っていた。これがとんだ見当違いであることが分かったのは、職業経験をだいぶ重ねてからのことだった。

電子部品を作る工場で働いていたとき、同じラインにヤスダさんという男性がいた。要領が良く、誰とでも上手に付き合う、欠点のない人だった。私もヤスダさんも派遣社員だったが、工場長からヤスダさんだけ、正社員になるように打診があったほどだった。誰からも好かれ、仕事もできるという、完成に近い人格を持った人だった。

そのヤスダさんが、休憩時間に、私にこんなことを話してくれた。

「俺さあ、以前、別の工場にいたんだけど、仲間も作業自体もひどかったんだ。だから初日の昼休みで家に帰ってきちゃったよ」

あれほど要領のいいヤスダさんが初日の昼休みで……と驚いたが、あとになって、これは要領のいい人に共通する行動だと分かった。別の職場でも、かなりの人格者が入社してきたことがあったが、

「ここにいつまでもいても、しょうがない」

と言って、二ヶ月で辞めてしまった。

要領のいい人や、ストレスの少ない人生を歩んでいる人は、総じて判断が素早い。「ここにいてもしょうがない」と思ったら、すぐにそこを離れてしまう。今までの職場で色んな人を見てきたが、社会にうまく適応している人ほど、切り替えが早い。逆に、要領の悪い人や社会にうまく適応できていない人は、ストレスの多い職場や、得るものがない職場にも、いつまでもしがみつこうとする。私もそのタイプだ。

「石の上にも三年」ということわざはウソである。少なくとも、職業に関しては、当てはまらない。一つの職業に三年にいたら、十個の職業で三十年を費やすことになり、人生を棒に振ることになる。また、劣悪な職場に三年もしがみついたら、繊細な人なら精神が破綻してしまう。

生きるのが上手な人は、「ここにいてもムダだ」と思ったら、すぐに職場を辞めていく。

ことわざごときで、人生を棒に振りたくないものだ。

まぁ、これは派遣社員やバイトだからこそできるワザだな。正社員だったりすると変な職歴作りたくないと3年ぐらい我慢を強いられることが現実は多い。公務員試験だって社会人経験をしていると、ひとつの職場に4年以上いた人でないと合格者のボーダー上に上げてくれないし。難しいところです。年齢若くて、大企業にすがり付こうと思わなければやめちゃえ、やめちゃえ。