アニメ制作社員の自殺 クールジャパン支える「月600時間労働」の衝撃


産経新聞 4月25日(金)20時4分配信

アニメーションは、日本が世界に誇るポップカルチャーの代表格だ。ところが先週、平成22年に自殺したアニメ制作会社の元社員男性=当時(28)=が、過労による鬱病が原因と労災認定されたことが伝えられ、月600時間労働という過酷な実態が明らかに。「クールジャパンの底辺が、こんなにきついとは」と、衝撃が改めてネットに走った。

 亡くなった男性は、東京都杉並区のアニメ制作会社の元社員で、平成18年から21年12月まで正社員として勤務。制作進行と呼ばれる現場の調整役を務め、人気アニメ「おおきく振りかぶって」「かんなぎ」などに携わった。過労で鬱病になり、通院したが、退職後の22年10月に自殺。新宿労働基準監督署が労災と認定した。

 遺族側代理人の弁護士によると、会社にタイムカードで労働時間を管理する仕組みはなかったが、通院先のカルテには「月600時間労働」との記載があり、残業時間は多い時で344時間に上った。家に帰れないこともしばしばで、残業代が支払われた形跡もなく、7日間連続で会社に泊まったり、3カ月休みがなかったこともあったという。会社側は「労災認定を真摯(しんし)に受け止め対応していく」とのコメントを発表した。

 ◆業界では当たり前?

 これらの情報が新聞やテレビで報じられると、ツイッター掲示2ちゃんねるなど、ネット上には「月600時間ってことは、休みなしで毎日20時間働く計算だぞ」「1カ月って720時間しかないんだけど」「こんなの見たらアニメを楽しめない…」と、驚きが広がった。

 一方、アニメ制作の関係者とみられる人たちは、「月に300時間や400時間の労働なんて、アニメ業界では当たり前。600時間も十分あり得る」「追い込み時期は土日もなしで毎日3〜4時間睡眠」などと業界の実態を暴露。リアリティーたっぷりの発言に「これが世界に誇るアニメの現実か」「恐ろしすぎる」「業界の構造を変えないとダメだ」などのコメントが相次いだ。

 話題はやがて、過酷なのはアニメ業界だけではないという方向に展開。アニメのほかに過酷だと指摘された業界の中で、特に目立ったのは、ゲームや漫画、スマートフォンなどのプログラム制作だった。

 ◆犠牲の上に…

 こちらも「ゲーム制作は地獄だった。会社に1週間泊まり込みで仮眠は固い床で1時間。ふっと電車に飛び込みそうになった」「体を壊してやめていくのはザラ。1週間寝れなくて血吐いたり20代後半で突然死した人もいた」などと、アニメ業界同様に厳しい勤務実態の報告が続出。

 これらを受けて、「犠牲の上に成り立ってる業界が多いんだな」「日本のクリエーティブ系の職種って、どこも似たり寄ったり」「異常労働が、これほど広く常態化しているとは」などと憤りも交えた声が多く書き込まれる中、「労働が過酷な業界はどれもみんな、日本が世界に積極的に発信しているクールジャパンに関連したものばかりじゃないか」と指摘する人も登場。

 「世界から高い評価を得ているクールジャパンが、犠牲者の上に成り立っているのが実態なんて、明らかにおかしいだろ」「体を壊してまで文化を支えている人たちの待遇をなんとか改善しなければ」などと、日本のポップカルチャーの未来に対する懸念が相次いだ。(壽)

【用語解説】過労死 

 長時間労働による疲労や精神的負荷が過度に蓄積することによって引き起こされる死。鬱病の発症などによる過労自殺もある。厚生労働省発表の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」(平成24年度)によると、過労死は申請285件、認定123件、過労自殺は申請169件、認定93件。これを氷山の一角とする指摘もあり、「karoshi」は国際語となっている。