アジア人にしては頑張ったね


 全豪オープン準々決勝、前回大会の覇者・バブリンカ(スイス)のサービスエースが決まり、錦織圭(25歳)の敗退が決まった瞬間、日本中が失意のため息に包まれた。

 だが、現地で試合を見ていた海外のテニスファンの反応は、日本人とはまったく違うものだった。

 錦織の健闘を称え、コートを去る背に拍手を送りながらも、観客たちはどこか満足気。

 「アジア人にしてはよく頑張ったね」

 彼らの表情は、そう言っているかのようだった。

 米スポーツ誌スポーツ・イラストレイテッド』で、テニスを専門に取材するベテラン記者のジョン・ワーサイム氏が証言する。

 「日本では大人気だと聞いていますが、正直に言って、錦織は海外のテニスファンの心はまったく�拙んでいません。というより、誰も錦織に興味がないんです。欧米人が期待し、関心を持っているのは、錦織ではない。自らの国の選手、つまり欧米のスターたちだけです。

 では、なぜ錦織の試合が喜ばれたか。それは彼が負けたからでしょう。欧米人は自分たちのスターに懸命に立ち向かった末に敗れる、いいアンダードッグ(負け犬)が大好きなんです。観客たちが惜しみない拍手を送ったのは、彼らが望む通りそんなシナリオを、錦織が描いてくれたからですよ」

 海外のファンが準決勝で見たかったカードは、あくまで、世界ナンバーワンプレーヤーのジョコビッチ(セルビア)と、前回覇者のバブリンカの一戦。つまり彼らが錦織に期待していたのは、「勝利」ではなく「健闘」だったというわけだ。

 錦織に対する、この「人種差別」とも言えるアジア人軽視の風潮。それは、今回の全豪から始まったことではない。

 「実力が世界で認められ始めた頃から、錦織はその空気を肌で感じてきたと思います。たとえば、'13年の全仏オープン。錦織は地元フランスの選手と戦った3回戦で、大ブーイングを浴びました。それも錦織に非はまったくなかったにもかかわらず、です。

 相手のフランス人選手は、試合の合間にコーチから助言を受けた。これは禁止行為であるため、主審はペナルティとして失点を宣告しました。しかしこの判定にそのフランス人は猛抗議し、観客もそれを後押しした。錦織がサーブを打とうとするたびに容赦なく汚い野次が飛び、ポイントを取るたびにブーイングの嵐が起きた。地元の声援で片付けるには、あまりにも理不尽でした。観客たちの頭には、アジア人に対する蔑視があったはずです」(錦織を長く取材してきたテニスジャーナリスト)

 そして、徐々に世界ランキングを上げていった昨年以降、そんなアジア人への「差別」は、さらに顕著になっていったという。

 「『年間10回以上の抜き打ちドーピング検査や、早朝に検査担当者が自宅や宿泊先に突然現れたことがある』と錦織は言っていました。こんなもの、アジア人に対する嫌がらせ以外の何物でもありませんよ。クルム伊達公子も、深夜に抜き打ち検査を受け、激怒していましたからね」(前出のジャーナリスト)