就活人気ランキングで銀行が急降下大変でもステイタスはあったのに……

学生の就職活動で不動の人気を誇って来た「銀行」の地位に変化が起き始めている。話題になったのは就活情報大手の「ディスコ」による調査だ。統計開始以来、8年連続で業界人気の首位だった「銀行」が、今年の調査で4位に転落したのだ。代わりに首位に立ったのは、人工知能フィンテックを推進する「情報・インターネットサービス」だという。
 昨年調査が行われたマイナビの「2018就職企業ラインキング」を見ると、1年前までは銀行人気は強かったことがわかる。文系総合のランキングでは、トップ3が全日空JTB日本航空の3社。次いで4位が三菱東京UFJ銀行、6位が三井住友銀行、8位がみずほフィナンシャルグループと、メガバンク3行はいずれもトップ10にランクインしていた。
 同じく昨年の東洋経済新報社の調査や、キャリタス就活2018の調査でも、銀行は上位にあった。まさに不動の人気と言ってもよかった。それが突然、今年2月に行われたディスコの調査で、銀行が4位に転落したというのだ。
 これから4月に入ると、前述した他の就活サイトからも新しいランキングが発表されることになるが、おそらく銀行はそれらの調査でもランキングを下げるだろう。いったい、何が起きているのだろうか。
 就活生にとっての銀行人気神話の前提を振り返ってみると、他業界に比べて圧倒的に高年収が保証されているというイメージが強かった。一方で、神経を擦り減らし人間性が削られていくというマイナス面とのバランスを比べながら、それでもエリートである銀行員に学生たちが憧れるというのが、これまでのステレオタイプな説明であった。
 念のために補足説明しておくと、入行してみればわかる通り、銀行は金貸しである。特に法人顧客の場合、銀行がお金を貸してくれるかどうか次第で、企業は天と地ほどの格差を味わう。金にまつわる仕事はきれいごとではない。銀行員の仕事は多くの恨みつらみを背負いながらのものになる。さらに日常では、プライベートを含めて羽目を外すこともよしとされないから、ストレスは溜まり、どうやっても神経はすり減っていく。
 そのデメリットがわかっていても、社会的地位が高い銀行の仕事は、過去数十年にわてって、学生の人気業種トップだったのである。では、なぜこの1年で急激に銀行のランクが落ちたのか。わかりやすいきっかけは、昨年メガバンク三行がそれぞれの形で表明した大規模なリストラ予告だった。
 それぞれターゲット時期は異なるため、規模も異なるが、三井住友フィナンシャルグループでは2021年までに4000人分の業務量を削減。三菱UFJフィナンシャル・グループは2024年までに9500人分の業務量を削減するという。さらにみずほフィナンシャルグループでは、2027年までの10年間に1万9000人の従業員を削減すると発表している。
「リストラ計画」の行方を目ざとく見据えている学生たち
 一見、三井住友が少なく、三菱UFJが中間で、みずほが大規模なリストラをするように見えるが、実は3社の発表は私には全部ひとつながりの連続した計画に見える。
 実際、三行ともはじめに導入するのは、ロボティック・プロセス・オートメーションという、人工知能を導入した事務作業の自動化である。これによって大量の銀行事務の仕事が消滅する。
 なくなる仕事から、行員を別の仕事に振り向ける。これが、三井住友が4000人を事務から営業へと配転させる計画の根拠である。これを経営陣は「ルーティンに携わっていた人材を創造的な仕事に振り替えていくこと」と表現している。
 そして4年間で4000人、7年間では9500人というのが、三井と三菱UFJの人数規模の違いであって、どちらも言っていることは、次々と消滅していく事務に携わる行員の営業業務への配転だ。
 これは私たちコンサルタントにとっては、とても耳慣れた経営トップの言い回しで、現業の仕事がなくなった企業では過去もよく同じ発言が繰り返されてきた。国鉄がJRになった際は現業の余剰社員を営業に配転するという人事が行われた。富士通やNECでは、工場の閉鎖が大量に計画された時代にITエンジニアへの配転が発表された。
 要は、それまでやってきた仕事がなくなったら、その会社で一番金が稼げる仕事に社員を配置転換すると会社は発表するのだ。ところが現場の社員を、営業やITエンジニアのような「創造的な仕事」に配置転換しても、実際は戦力にはならない。結果、多くの社員が新しい仕事に定着できずに辞めていく。
 その観点からすると、一番正直に長期計画を発表しているのがみずほFGだ。みずほだけは業務量の削減の結果を配転ではなく従業員の削減で対応すると明言している。最終的にそうなることが自明だからだ。そして論理的には、三井住友と三菱UFJも、まだ計画では語られていない5年目以降、8年目以降については、みずほと同じ決断をそのときのトップがせざるを得ないことになるだろう。
 結局のところ学生にとっては、たとえ今年の就活に勝ち残って入行しても、その先に待っているのは大規模なリストラということになる。目端の利く学生にはその理由もわかっている。
 一番の理由は、フィンテックに大規模な投資が集中しているからだ。銀行員の競争相手は今や人工知能であり、しかもその人工知能の方が銀行員よりも競争力は強い。
 そのため、必然的に銀行は人気業種首位から陥落し、代わりにフィンテックを生み出す側の情報・インターネットサービスが、人気業種首位に躍り出るという図式が生まれたわけだ。
みん就」で昨年1位だったあの企業が一気に転落した理由
 そしてもう1つ、別の側面からも銀行には学生から嫌われる要素がある。その事実を説明するために、別の就活サイトを紹介しよう。楽天が運営する「みん就」(みんなの就職活動日記)、つまり就活学生の口コミサイトにおける人気ランキングである。
 まず銀行を確認してみると、口コミサイトでもやはり今年の銀行の順位は落ちている。三菱東京UFJ銀行は昨年の6位から9位にランクダウン。みずほフィナンシャルグループは同じく9位から16位にランクダウン。そして三井住友銀行は10位から21位にランクダウンという状況だ。
 ところが、それ以上にわかりやすくランクを落としている別の業種の企業がある。昨年、総合人気ランキングで1位だったある企業が、今年は総合23位と大幅に人気ランキングの順位を落としているのだ。
 その昨年1位だった転落企業とは「電通」である。実は「みん就」はリクナビマイナビのような企業側からの就職情報サイトとは違い、ある程度就職活動や企業研究を進めた段階での、より企業について知識が深まった学生たちによるランキングであるところに特徴がある。
 そのようなサイトであるから、見かけの華やかさよりも、企業研究をしてわかった仕事の大変さの方が強くランクに反映される。流行りの言葉で言えば「働き方改革」の必要性を強調する、ないしはされるような企業は、この「みん就」の順位では大幅にランクを下げているのだ。
仕事観の変化が原因ではないもはや「ワリに合わない」のだ
 私はこの現象は、「世代の性格が変わった」からではないと捉えている。以前は銀行や広告代理店のような人気職業には、給料が高い、周囲から羨望の目で見られる、といったメリットと、職場環境の過酷さを天秤にかけて、それでも学生人気が高いという共通点があった。その人気が落ちたのは、学生たちが給料の高さよりもワークライフ・バランスを選ぶようになったからだという「世代説」があるが、私はそれは違うと思っている。
 そうではなく、銀行も広告代理店も、すでに給料の高さ、社会的ステイタスの高さといった神話が崩れているのだ。時代が変わり、学生の価値感が変わったから銀行の人気が下がったのではなく、銀行の給料ではもうワリに合わない時代がきたことを、学生たちは理解しているわけだ。
 その意味で、銀行の人気ランキング首位陥落はまだ序章であると私は読んでいる。この先、フィンテックロボティック・プロセス・オートメーションといった人工知能の発展に伴い、より誰にでもわかる形で順位を下げていくだろう。