長田塾

「長田塾裁判」に判決
暴力事実認めるも、請求棄却/想定外の時効成立 12/14

 不登校、ひきこもりなどを解決すると宣伝し、親と子の「メンタルケア」の事業をしている「長田塾」(有限会社塾教育学院)とそれを主宰する長田百合子氏に対し、01年に自宅から意思に反して拉致された15歳の少年(当時)が不法行為による損害賠償を請求した裁判で、12月7日、名古屋地裁(加藤幸雄裁判長)は請求棄却の判決を言い渡した。

 判決では原告が主張していた、長田塾スタッフによる暴力、少年の承諾なくNHKテレビが居室内や容ぼうなどを撮影することを長田被告が許したことなどの「違法性」を認めたが、損害賠償請求権の消滅時効(※注)が成立したとの理由で請求を棄却した。
判決は、ほぼ原告が主張した事実を認定した。判決が認定した事実は、01年に少年が長田百合子被告らによって連れていかれた経過、その際、長田被告は母親に対し、少年を「殴れ」と言ったこと、少年が「長田塾」の施設・八事寮から脱走した罰として長田被告の指示で頭髪を丸刈りにされたこと、少年がさらに脱走し八事寮へ連れ戻されたときには深夜2時ころまで長田被告やスタッフ、寮生に取り囲まれたミーティングで批判・非難を受け、翌朝、原告が再度脱走すると、長田被告の要請を受けたNHK職員が名古屋駅で少年を見つけて八事寮へ連れ戻し、長田被告の長男から顔面を殴られるなどの暴行を受けたこと、少年は同年12月初旬から約2カ月間アパートの一室に電話やテレビや所持金もなく、外出を禁止されて、抜け出すことが事実上困難な状態に置かれたことなど。
 そして、判決は子どもの権利条約29条1項、19条1項を引用し、「保護者、監護者であっても、身体的もしくは精神的な暴力、傷害もしくは虐待、放置もしくは怠慢な取り扱い、不当な取り扱いまたは搾取を行なうことは許されない」とし、「体罰は原則として違法性を帯びる」としたうえで、①少年の承諾を得ないでNHK関係者が原告の居室内や容ぼうを撮影するのに便宜を与えた行為、②丸刈りにした行為、③顔面を叩くなどした行為は、違法と評価する余地が十分に認められるとした。
 また、撮影については、たとえ親が同意しても適法にはならず、長田被告の意図も放映により自己の「社会的評価を高めようとするもの」と推測されるとしている。
 他方で、長田塾の指導方法の効果につき、原告が提出した高岡健医師(児童精神科医)と芹沢俊介氏(社会評論家)の意見書が批判していることに触れながら、指導方法の当否についてはさまざまな議論があり「裁判所による認定・判断になじまない」として判断を避けた。また、NHK職員が少年を八事寮に連れ戻す際、暴行を加えていた件について、判決ではまったく触れられなかった。
 判決は実質的に被告らの不法行為を認定した。しかし、原告が02年1月25日、弁護士に同行してアパートから出た瞬間から、被告らの管理支配下にはなかったため、損害賠償請求権を行使することができたが、今回の訴えまでに3カ年以上が過ぎており、消滅時効が成立しているとして、原告の請求を退けた。
 判決後の集会に出席した少年の代理人・多田元弁護士は「損害賠償請求権の消滅時効については、裁判の過程で原告と被告の双方が重要な争点としていなかった。それにも関わらず、裁判所がいきなり時効を持ち出した『不意打ち判決』で、さまざまな判断を保留をしたままになっている」と語った。また、消滅時効に関しては、当時、少年は未成年者であり、自分では権利行使ができず、親権者が長田被告と入寮契約をして原告をあずけた者だということを考えれば「判決の時効の判断には問題がある」と批判した。控訴については、現在のところ未定。
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 原告の請求自体は棄却されたが、判決によって、長田塾の違法な実態は明らかにされたと言える。
(※注)消滅時効
 民法724条は不法行為による損害賠償は被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは時効によって消滅すると規定している。