フジテックで私の身に起きたこと

今年に入り、内部告発によって企業の不正が次々と発覚している。2006年4月より施行された公益通報者保護法では、公益通報者に対する解雇の無効や不利益取り扱いの禁止が定められている。ただし、同法で公益通報者が保護を受けるには限界があるようだ。

「受注産業だから悪評は隠したい」

 私は、2006年4月にエレベーター会社のフジテックに入社、グローバル営業部に配属された。営業研修中、上司から聞かされたのはサービス残業の愚痴だった。私は労働諸法を学習後、残業手当を支払うよう、人事部A氏に問い詰めた。

 人事部A氏「企画業務型の裁量労働制だから残業代は支払われません」
 私「末端の営業社員にその制度は適用できないのでは?」
 人事部A氏「グレーゾーンです。協定も結ばれています」



私とフジテックの主張は平行線のまま…(写真はイメージ、撮影:吉川忠行)
 協定の公開を求めたものの拒否された。しかし後日、このA氏の回答がデマカセであることが判明する。私は、社内通報制度を利用し営業部長B氏に通報した。サービス残業の根絶・違法残業の実態調査・不払手当の清算を訴えた。

 営業部長B氏「払わんよ」「すべての法律を守れるわけないやろ」

私の通報はB氏から人事部長のC氏と人事部D氏へと伝わった。10月、人事部長のC氏から呼び出された。

 人事部長C氏「職場の秩序を乱すのは懲戒も有り得る」「始末書を提出しろ」
 人事部D氏「過去のことをほじくり出しても新聞沙汰になる」「受注産業だから悪評は隠したい」

リストラ部屋での報復人事

 10月下旬、私はただ1人営業研修から外され、教育担当E氏の監視の下、「研修」と称した隔離を受けることになった。研修室は広いプレゼンルームに外部とは繋がらないパソコンが置かれていた。

 与えられた課題は会長の訓示集を読み所感文を書くこと。正当な仕事はなかった。これは俗にいう「リストラ部屋」だ。報復人事が始まったのだった。

「転職先を探したほうが自分のためだ。しかし、悪い会社を野放しにはできない」

と考えた私は、会社と闘う道を選んだ。イスに座り、独習する日々が続く。この間、人事部長らとの面談回数は40回を超えた。

 私「コンプライアンスを求める気持ちは会長や創業者も同じです」
 人事部長C氏「違う」
 人事部D氏「サービス残業は当たり前のこと」「あなたはみんなが当たり前と思っていることをおかしいと言う」

好条件が示される退職勧奨

 「リストラ部屋」での闘いも2カ月が過ぎた頃、本格的な退職勧奨が始まった。2カ月間の出勤免除、給料の保障、転職活動の容認、就職支援会社の利用費用の全額会社負担。次々と良い条件が与えられた。私の分のみの未払い時間外手当もこの時期に支払われた。

 そんな折、監視役のE氏が漏らした。

 教育担当E氏「このままではお互い精神衛生上よくない」

危険を伴う部署への配置転換

 さらに2カ月が過ぎた頃、2007年3月付けで工務部への配置転換を命じられ、建設現場でのエレベーター据え付け作業員にさせられた。命の危険を伴う仕事である。

 その頃、人事部D氏らは私の父を呼び出し、こんな話をしていた。

 人事部D氏「昔はとことんやる会社もあった。僕たちはそこまではしません」「自分の息子であれば見切りをつけるよう言う。自分の人生が工務の現場で果たしていいのかと」

 私は、一連の報復人事について、社長あてに内容証明付で質問書を郵送した。回答は、社長ではなく総務本部長から行われた。総務本部長の回答を紹介する。


◆隔離について

「営業研修の効果があがらず、営業部長Bからも研修を終了させたいと言われたため、人事部で預かった。貴君も納得して始めたことだ」

◆配転について

「配転先はあなたの意向をふまえている。営業の適性はないと判断した。工務部は人不足であり、人選の合理性、業務上の必要性を満たしている。入社時、2週間のフィールド研修で適性があると判断した」「貴君を退職させるためというのは誤った理解である」


労基法違反の是正勧告を受けたフジテック

 私とフジテックの主張は平行線のままである。何度未払い賃金をすべて清算するよう提言しても、認められないまま歳月が過ぎた。

 私はやむを得ず、2007年5月に大阪中央労働基準監督署に情報提供した。結果、監査が入り、フジテック労働基準法違反の是正勧告を受けることになったのである。

容易ではない公益通報者の保護

 公益通報者保護法公益通報者に対する不利益取り扱いが禁止されているが、同法の保護を受けるのは容易ではない。被害者が法廷の場で、公益通報者に対する解雇もしくは不利益取り扱いを立証しなければならないのである。

 しかし、会社は公益通報者保護法に違反した不利益取り扱いを「人事権」で片付けようとするのである。たとえ勝訴であっても、報復人事で負った精神的苦痛で認められる慰謝料は、弁護士費用にも満たない。内部告発者は多大な金銭的負担を強いられるのである。

 日本には公益通報者の保護するための法制度が、完全には整備されていないのである。

【編集部注】編集部では記者がフジテック社に在職中であること、社内通報制度が同社に存在することを確認しています。また、同社からは以下の見解を得ています。

1. プレゼンルームでの研修について
「(研修を受けたことは)事実です」
研修内容は、1)企業人として一般常識、2)会社についての理解──それぞれの課題(ビデオ、テキスト)に対するレポート提出。

2. 工務部への異動について
「社内通報は、配置、異動に何ら関係、影響しません」

3. 工務部の作業の安全性について
「安全衛生管理を徹底して、危険が生じないよう対処しています」

4. 大阪中央労働基準監督署の監査について
「2007年5月11日と5月21日に調査がありました」

5. フジテック社の公益通報者の保護に関する見解
「全員に配布し携帯を義務づけている『フジテックコンプライアンス・カード』に記載のとおり、『情報提供者のプライバシーは保護し、不利益が一切生じない』よう対処しています」