弁護士は”割に合わない”キャリア

意外に思うかもしれないが、高い所得を第一の目的に弁護士を目指す人はまずいない。弁護士は昔も今も、いつ受かるかわからない難関試験をパスしなければなれない“割に合わない”職業だからだ。

年間の合格者が500人だった旧試験時代、司法試験に合格することは「宝くじに当たるようなもの」と言われた。

司法試験に手が届くくらいの頭脳の持ち主であれば、テレビ局や大手広告代理店、外資系の金融機関やコンサル会社に就職するほうが、司法試験に合格するよりもはるかにたやすい。旧試験組で司法修習期間が2年間だった時代に、3回目くらいで合格している弁護士だと、弁護士デビューは26〜27歳。同年代で学卒後すぐに高サラリーの企業に就職した同期が26〜27歳でもらうサラリーと同程度の初任給を出してくれる事務所となると、ごく一部のブル弁事務所に限られた。ブル弁事務所に採用されるには、ただでさえ宝くじレベルの司法試験で、上位での合格が条件になる。

原則、法科大学院を卒業しなければ司法試験の受験資格が得られない現在では、弁護士デビューの年齢はさらに高くなっている。現役で大学に入学、法科大学院が2年コースで司法試験に一発合格という最短コースでも、司法試験合格時点で25歳だ。そこから1年間の司法修習を経て、弁護士デビューするのは26歳。

旧試験時代なら大学在学中に司法試験に合格、大学卒業後2年間の司法修習を経て、24歳で弁護士デビューというのが最短だった。

法科大学院が3年コースで3回目の司法試験受験で合格という人だと、合格時点で既に28歳。1年の修習を終えると弁護士デビューは30歳近くなってしまう。

その時点で、新卒で高サラリーの企業に就職した同期がもらっているであろうサラリーを考えたら、高収入を第一の目的にするのであれば、高サラリーの企業に新卒でさっさと入ったほうが、よほど確実に目的を達成できるのだ。

総じて法曹を目指す人のマインドは、世間が思うよりもはるかに純粋だ。社会正義を実現したい、グローバルカンパニーを法的な側面で支援をすることを通じ、日本経済の発展に貢献したい、といった高邁な目的があればこそ、難関試験にも挑める。

司法修習を経て、徐々に現実の弁護士業務への理解が進んでも、なお、新人弁護士が抱く理想は高邁だ。それでも現実に初任給という形で自分の価値に値段がつく段階になると、やはり高い値段をつけてくれる事務所に素直に心が動く。ブル弁事務所へのあこがれは、スケールの大きい仕事ができるということへのあこがれが第一ではあるが、自分に高い値段がつくことへの誇りが相まったものといったところだろう。